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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)12883号 判決

原告

植主光雄

ほか一名

被告

鈴木色材工業株式会社

ほか一名

主文

被告らは各自原告植主光雄に対し金一二八万二七二〇円、原告植主昌子に対し金一四五万円および右各金員に対する昭和四四年四月一四日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らの、その余を被告らの各連帯負担とする。

この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

第一、請求の趣旨

一、被告らは各自原告光雄に対し四九三万六四二三円、原告昌子に対し四五二万四〇一二円および右各金員に対する昭和四四年四月一四日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二、訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求める。

第二、請求の趣旨に対する答弁

一、原告らの請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第三、請求の原因

一、(事故の発生)

訴外植主茂之は、次の交通事故によつて死亡した。

(一)  発生時 昭和四四年四月一四日午後一一時三〇分頃

(二)  発生地 東京都南多摩郡多摩町関戸二五五番地先川崎街道路上

(三)  加害車 自家用普通貨物自動車(品川四や八八五二号)

(四)  運転者 被告 木村

(五)  被害者 訴外茂之(歩行中)

(六)  態様 加害車は横断歩行中の被害者をはねとばした。

(七)  被害者 訴外茂之は即死した。

二、(責任原因)

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

(一)  被告会社は、加害車を所有し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

(二)  被告木村は、事故発生につき、前方、左右不注視の過失があつたから、不法行為者として民法七〇九条の責任。

三、(損害)

(一)  葬儀費

原告光雄は、訴外茂之の事故死に伴い、葬儀費として、六一万二四一一円の出捐を余儀なくされた。

(二)  被害者に生じた損害

(1) 訴外茂之が死亡によつて喪失した得べかりし利益は、次のとおり九〇四万八〇二四円と算定される。

(死亡時) 五歳

(推定余命) 六五・四八年(平均余命表による)

(稼働可能年数) 四〇年(二〇歳から六〇歳まで)

(収益) 月収、六万五五九五円(従業員三〇人以上の企業の男子労働者の平均賃金。労働大臣官房調査部刊行、昭和四三年の労働統計年報による)

(控除すべき生活費) 一ケ月一万五六二八円(前記資料によれば、同年の勤労者世帯一ケ月平均消費支出は六万三六〇七円、平均世帯人員は四・〇七人であるから、六万三六〇七円を四・〇七で除した一万五六二八円)

(毎月の純利益) 四万九九六七円

(年五分の中間利息控除) ホフマン複式(年別)計算による。

(2) 原告らは右訴外人の相続人の全部である。よつて、原告らは、いずれも親として、それぞれ相続分に応じ右訴外人の賠償請求権を相続した。その額は、原告らにおいてそれぞれ四五二万四〇一二円である。

(三)  原告らの慰藉料

原告らは、本件事故で長男茂之が死亡したことにより、耐え難い精神的シヨツクを受けた。その精神的損害を慰藉するためには、原告らに対しそれぞれ一五〇万円が相当である。

(四)  損害の填補

原告光雄は被告会社から葬儀費として既に二〇万円の支払いを受け、原告らは自賠責保険金三〇〇万円の支払を受けた。

四、(結論)

よつて、被告らに対し、原告光雄は四九三万六四二三円、原告昌子は四五二万四〇一二円および右各金員に対する事故発生の日である昭和四四年四月一四日以降支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四、被告らの事実主張

一、(請求原因に対する認否)

第一項中(一)ないし(四)は認める。(五)は否認する。(六)は認める。

第二項中(一)は認め、(二)は否認する。

第三項中(一)(二)(三)は不知、(四)の被告会社の弁済額は後記の如く三一万七二八〇円であり、その余は認める。

なお原告らは、訴外茂之の養育費を控除していないが、満五歳であつた同人が二〇歳から稼働して収入をあげるには、その間の両親の扶養が不可欠の要件であるから、その間に要する養育費は茂之が収入をあげるためのいわば必要経費の性格を有するから、右養育費は損益相殺すべきである。その費用は一ケ月七、〇〇〇円が相当である。

二、(事故態様に関する主張)

本件事故現場の道路は、幅員約七米で歩車道の区別はなく道路両端が未舗装であるが、交通量は頻繁で、事故当時、加害車の対向車線上は、交通が渋滞して対向車は停止と発進を繰り返していた。法定速度が時速四〇粁であるので、加害車は時速約三五粁ないし四〇粁で進行していたところ、加害車が幌付二トン貨物車とすれ違おうとしたとき、その直後右側から被害者が加害車の一・七米の直前に飛び出して来たため、衝突したものである。

右のとおりであつて事故発生については被害者訴外茂之の過失も寄与しているのであるから、賠償額算定につき、これを斟酌すべきである。

三、(抗弁)

(一)  損害の填補

被告会社は本件事故発生後、葬儀費として、三一万七二八〇円の支払いをしたので、右額は控除さるべきである。

第五、抗弁事実等に対する原告の認否

(一)  弁済の抗弁は認める。但し、二〇万円は既に控除して請求してあるから、重ねて控除すべきではない。

(二)  過失相殺の主張は争う。訴外茂之は、当時五歳で事埋弁別能力はなかつたから、同人の過失を論ずることはできないし、又、監護義務者である原告らに監督上の過失はない。

第六、証拠関係〔略〕

理由

一、(事故の発生)

請求原因第一項(一)ないし(四)および(六)の事実は当事者間に争いがない。〔証拠略〕によれば、横断中の訴外茂之と加害車とが衝突したことが認められる。

二、(責任原因と被害者の過失)

(一)  被告会社が加害車を自己のために運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。

(二)  被告木村の過失と、被害者の過失について判断する。〔証拠略〕によれば、本件事故現場附近の道路状況は、桜ケ丘駅方面(ほぼ東方)から八王子方面(ほぼ西方)に通ずる幅員六・四米の歩車道の区別のないアスフアルト道路で、市街地で交通は輻輳しており、路面は良好であり、速度制限は時速四〇粁で駐車禁止追越禁止の規制があること、本件事故当時西方から東方へ進行する車線は車両が渋滞していたところ、被告木村は東から西へ向つて時速約四〇粁で進行し、「三代目松寿司」前に差しかかつた際、丁度すれ違つた幌つき貨物自動車の蔭から北側から南側へ被害者茂之が急に出て来たので、急拠ブレーキを踏んだが間に合わず、同人に衝突したことが認められる。

以上の事実によれば、商店街で交通最も多く対向車側は車が渋滞していたのであるから、自動車運転者としては不測の事故に備えるべく速度を落して運転すべきであるにも拘らず、漫然と時速四〇粁で進行していた過失が認められる。

(三)  これに対して、当時満五歳であつた被害者茂之には、道路を横断するに際して左右の安全を確認しなかつた過失が認められる。なお、原告は、過失相殺をする前提として、被害者に事理弁識能力を要する旨主張するが、当裁判所は、被害者の所為が事故発生に有因的に作用している場合には、被害者の事理弁別能力の如何にかかわりなく過失相殺をなすことができるものと解するので、原告の右主張は採用できない(東京地方裁判所昭和四三年(ワ)第一一一一六号昭和四四年一〇月二二日判決、判タ二四二号一九六頁参照)。

そして、被害者茂之の過失と被告木村の過失の割合は三対七を以て相当と認める

三、(損害)

(一)  葬儀費

〔証拠略〕によれば、原告光雄は、訴外茂之の事故死に伴い葬儀費として六〇万円以上の支出をしたことが認められるが、本件事故と因果関係のある損害はそのうち二〇万円を以て相当と認める。

(二)  被害者に生じた損害

(1)  訴外茂之が死亡によつて喪失した得べかりし利益

〔証拠略〕によれば、訴外茂之は死亡当時五歳であつたことが認められ、厚生省第一二回生命表によれば五歳の男子の平均余命は六四・五七年であることが認められるから、同人は本件事故に遭遇しなければ、満二〇歳から満六〇歳までの四〇年間、男子労働者の平均賃金を得たものと認められる。労働省労働統計調査部の昭和四三年賃金センサスによれば、男子全産業労働者の平均月間決つて支給される現金給与額は五万一二〇〇円、平均年間賞与その他の特別給与額が一四万三二〇〇円であることが認められ、年収の平均は、七五万七六〇〇円である。ところで、平均すれば右四〇年間を通じて生活費は収入の二分の一と認めるので、一年間の純収入は三七万八八〇〇円となる。右四〇年間の純収入から年三分の割合による中間利息を年毎に控除すると、三七八八〇〇円×(二六・〇七二三-一〇・九八〇八)≒五七一万二八七二円となる。

(2)  右逸失利益の相続

〔証拠略〕によれば、原告両名は訴外茂之の両親であつて、他に茂之の相続人は存在しないことが認められる。

したがつて、原告両名は各二分の一に当る二八〇万六四三六円をそれぞれ相続した。

(3)  養育費の控除

ところで、訴外茂之が稼働を開始する二〇歳になるまでの養育費を、原告両名は免かれることになるので、養育費については損害賠償額算定に当つてはこれを控除すべきものと解する(東京地方裁判所昭和四三年(ワ)第一二八〇七号昭和四四年一一月一二日判決判タ二四二号二一〇頁参照)。

その額は、諸般の事情を勘案し、訴外茂之の成人までの年月を平均して月額五〇〇〇円年額にして六万円程度とみるのが相当である。二〇歳に対するまでの一五年間の総額から、年五分の割合による中間利息を年毎にホフマン式計算で控除すると、六〇〇〇〇円×一〇・九八〇八=六五万八八四八円となる。そして、原告両名の負担割合は他に特段の事情のない本件においては、各二分の一とみるのが相当であるから、控除すべき額は、それぞれ三二万九四二四円である。

(三)  過失相殺

原告光雄は(一)の二〇万円と(二)の(2)から(3)を控除した二四七万七〇一二円の合計二六七万七〇一二円、原告昌子は(二)の(2)から(3)を控除した二四七万七〇一二円の財産上の損害を蒙つたのであるが、前記過失割合を斟酌すれば、そのうち被告らに賠償せしめるべき金額は、原告光雄につき一八五万円、原告昌子につき一七〇万円を以て相当と認める。

(四)  慰藉料

本件事故の態様殊に過失割合、原告らと被害者との身分関係その他諸般の事情を総合勘案して、原告らの慰藉料は各一二五万円を以て相当と認める。

(五)  損害の填補

原告光雄が被告会社から三一万七二八〇円、原告らが自賠責保険より三〇〇万円をそれぞれ受領したことは当事者間に争いがない。そして弁論の全趣旨によれば、自賠責保険金に原告両名が折半して各原告の損害に充当したものと認められる。

四、結論

よつて、被告らは連帯して、原告光雄に対し一二八万二七二〇円、原告昌子に対し一四五万円および右各金員に対する事故発生の日である昭和四四年四月一四日以降支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるから、右の限度で原告らの本訴請求を認容し、その余の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 篠田省二)

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